プロ野球を現地で観戦すると、若い女性の売り子からビールを買うサラリーマンをよく目にする。特に夏の暑い日は、売り子から買うビールを楽しみに球場に行く人も多いのではないだろうか。
元グラドルのおのののか、モデルのほのか、乃木坂46の柴田柚菜など、多くの女性タレントを輩出してきたビール売り子のアルバイト。
女子大生の間でも超人気バイトとして知られており、一種のステータスとも言えるビール売り子だが、その実情は決して華やかなことばかりではないようだ。
今回は、アイドルとビール売り子を兼業していたという太田明里さんにインタビューを実施。売り子バイトを芸能活動の副業にするメリットや、大変さなどについて話をうかがった。
◆メリットを感じて売り子に“転身”
神奈川県出身で、横浜のご当地アイドルとして活動していた太田さん。地元をこよなく愛する彼女が選んだバイト先は「某屋外球場」だった。
「最初は球場の売店で働いていました。2015~2016年当時、世間ではビール売り子ブームみたいなものが起きていて。ちょうどその頃、うちの球場でも新たにビール売り子を募集することになったんです。アイドル活動にもプラスになるかもしれないと思い、私は社員さんに直談判をして、ビール売り子デビューを果たしました」
太田さんの思惑通り、ビール売り子のバイトはアイドル活動をする上で多くのメリットがあったという。
「球場で顔見知りになったお客さんがライブに来てくれることはよくありました。ビール売り子をしていると、たまに連絡先を渡してくる人がいるんですけど、私は全て断っていて。その代わり自分のTwitterアカウントを教えて『フォローしてね』と伝えたら、それがきっかけでファンになってくれた人もいました。また、ビール売り子はとにかく体力と筋力がつくんです。足腰が鍛えられたおかげで、ライブでへとへとになるようなことはなくなったし、体幹がしっかりしてダンスにもキレが出たような気がします」
◆季節によって異なる種類の悩みが…
アイドル活動にプラスになる一方で、ビール売り子との両立が大変なときも。
「ビール売り子は一般的なバイトと異なり、試合のスケジュールによってシフトが大きく左右されてしまいます。当然ですがオフシーズンは稼働できないですしね。また、シフトに入れば入るほどお客さんに顔を覚えてもらえて、ビールを買ってもらいやすくなります。だから、シフトは入れるだけ入っておきたいんですよ。でも、アイドルの仕事と重なってシフトを入れられないことも多くて。とはいえ、アイドル活動を休んでしまったら本末転倒なので、もちろんアイドル活動を優先するのですが、そこにジレンマを感じることもありましたね」
さらに、屋外球場ならではの苦労もあったそうで……。
「シフトを入れていても、雨や台風で試合が中止になり働けなくなることがありました。あと、とにかく夏がとんでもなく暑い。ものすごく汗をかくし日焼けもしてしまうので、夏のデイゲームは特にキツかったですね。春先あたりは涼しいので体感的にはちょうど良いのですが、今度は肌寒いせいでビールが全然売れないんですよ。私たちは歩合で働いているので、それもそれですごく困ります」
◆“誕生日アピール”が功を奏すことも
気候に加えて、試合展開が売上に影響することも少なくなかった。
「試合の流れが良くないと売れにくいですね。でも、勝てば勝つほど売れるかといったらそういうわけでもなくて。逆に盛り上がりすぎていると、みんなゲームに集中しちゃうから見向きもしてもらえないんですよ(笑)」
ビール売り子にとってビールの売れ行きは死活問題だが、太田さんはビール販売においても“アイドル力”を遺憾なく発揮していた。
「ファンの方々がよく球場に足を運んでくれて、応援のためにたくさん買ってくれていました。今でも本当に感謝しています。また、自分が誕生日のとき、球場のお客さんに『今日、私誕生日なんですよ』と伝えてまわっていたら、初対面の方なのにビールを樽ごと購入してくれた人がいました。とてもびっくりしましたが、嬉しかったですね」
◆試合中は邪魔もの扱いされることも多い…
しかし、時には困ったお客さんもいたらしく。
「写真撮影はNGなのに、バシャバシャとカメラを向けてくる人がいました。ちょっと前までは撮影がOKだったらしいので、ルールが分かってない人は仕方がないのですが、注意しても聞いてくれない人がいるのは悲しかったですね。あと、狭い通路で大きな樽を背負っているため、結構邪魔もの扱いされることが多くて。試合を見えづらくしてしまっているのはすごく申し訳ないのですが、樽を手で押して避けたりするのは危ないのでやめてもらいたかったです」
何かと苦労が多そうなビール売り子だが、アイドル業界もなかなか過酷なイメージがある。正直な話、ビール売り子とアイドルはどちらのほうが大変だったのか。
「うーん、どっちも大変ですね(笑)。私たちはローカルアイドルだったので、とにかく集客が大変で……。お客さんがまったくライブに来てくれないと、メンタルが落ち込んでしまいます。同様に、ビール売り子も売れてない日は結構しんどくて。売れないと、背負ってる樽がずっと重たいままなんですよね。他の人が売れているのに自分が売れていないと、樽も心も重たいというか……。でも、どちらもすごく楽しかったので続けられたんですけどね」
◆恋愛関係に発展することはあるのか?
そんなビール売り子とアイドルだが、大きく異なるのが「お客さんとの恋愛」に対する考え方だ。
「最近ではアイドルのように思われている側面があるけれど、実際は一般のバイトと同じなんです。多くのアイドルはファンとの恋愛がご法度ですが、ビール売り子はそうとも限らない。売り子は野球好きな子が多いので、お客さんと仲良くなり、試合を一緒に観に行くような仲になることもあるみたいで。友達になったり、そこから恋愛関係に発展することは普通にあるんじゃないかなと思います」
太田さんは最後に、「アイドルの副業にビール売り子が向いている理由」について語ってくれた。
「アイドル一本で食べていくのはかなり難しいので、みんな色んなバイトを経験しています。私が知っている範囲だと、工場とか、オフィスの事務とか、展示会のコンパニオンも多かったですね。アイドル活動と両立できればどんなバイトでも良いと思うのですが、ビール売り子は球場で顔を売れるのと、自分のアピール次第で売上が大きく変わるというところで自己プロデュース力も高めることができます。何より、体と心が強くなりますしね。私はもともとのほほんとした性格だったのですが、ビール売り子を始めてから『私って結構負けず嫌いなのかも』と感じるようになりました。アイドル活動でくすぶっていたり、なんだかうまくいかないなあと思っている子は、ビール売り子をおすすめしたいです」
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球場で接客してくれた可愛い女の子が、数年後には人気タレントになっていた……というのが珍しくない時代。タレントと兼業しているビール売り子を見つけたら、ぜひとも普段の活動も応援してあげてほしい。
<取材・文/渡辺ありさ>
【渡辺ありさ】
1994年生まれ。フリーランスライター兼タレント。ミス東スポ2022グランプリ受賞。東京スポーツ、週刊プレイボーイ、MEN’S NON-NO WEB、bizSPA!フレッシュなどで執筆。隔月刊漫画雑誌「グランドジャンプめちゃ」にて連載中の漫画「スワイプ」の原作も務める
(出典 news.nicovideo.jp)
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