「優勝しか目指さない」と宣言した2023年。結果は前年に続いて最下位。それでも、退任の噂も上がった日本ハムの新庄剛志監督は、球団からの契約延長要請を受諾した。「選手の成長を促してくれた」というのが留任要請の理由だったという。だが、それは本当に監督の手腕によるものだったのだろうか。
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昨年の日本ハムにおいて、間違いなく成長したと誰もが認めるのは万波中正だろう。本塁打王にあと1本と迫る25本を放ち、打率(.203→.265)も向上してベストナインとゴールデングラブに選出された。本人も監督からアドバイスを受けて打撃が良くなった、と感謝の言葉を述べていた。
一方で、一塁から三塁へコンバートされた清宮幸太郎のOPSは前年と同じ.734。守備負担が増えた点は考慮しなければならないが、本塁打数は18本から10本へ減少。結果的に三塁を追われた野村佑希のOPSは.724から.692へ下がった。清宮の三塁手としての守備力を考えても、昨年に限ってはコンバートが成功したとは言い難い。
野村に関しても、新庄監督は「四番で使い続ける」とキャンプの時点で明言していたが、5月末の交流戦以降はその座から外した。その理由は野村自身の不振によるところが大きく、判断自体が間違いだったとは言えない。だが、清宮とポジションを入れ替えただけでなく、外野や二塁で抜擢した試合もあった。ただでさえ打撃で悩んでいる選手に慣れないポジションを守らせたのでは、復調をさらに遅らせるだけではないのか。
万波もオープン戦や開幕当初は一塁で起用。これは阪神から獲得した江越大賀をライトで使うという意向があったが、一塁では万波のセールスポイントである強肩を活かせない。こうした起用法を見ても疑問は残る。
トレードで獲得した郡司裕也が活躍した際も、中日では出番が少なかったことから「新庄監督のおかげで覚醒」との声が上がった。しかし、郡司(と山本拓実)の代わりに放出した宇佐見真吾と齋藤綱記のほか、西村天裕(ロッテ)、佐藤龍生(西武)は全員ファイターズ在籍時より成績は良くなり、西村と佐藤の代わりに加入した選手たちは振るわなかった。
トレード自体は監督の権限ではない。しかし、戦力になれるはずの選手を活用できていなかった感はやはり否めない。投手では田中正義、池田隆英の大学同期コンビや上原健太、河野竜生、福田俊の左腕トリオが成長したが、これも監督というより建山義紀コーチの手腕によるものだとも言える。
投手陣にはポジティブな材料が多い。それだけに……
采配にも疑問はある。スクイズやダブルスチールの多用に象徴される動きの多い作戦が、奏功しているようには思えない。
昨年の464得点はリーグ5位で、得点力の少なさを補うために、足を絡めた戦術を使っていた面はある。だが75盗塁を決めた一方で失敗数はリーグワーストの49回を記録。成功率は60.5%にしかならなかった。積極的なベースランニングを奨励した結果、先の塁を目指してアウトになるケースも目についた。チーム出塁率は.297と低く、ただでさえ少なかった走者が出る機会を逸し、チャンスを潰す場面も目立った。
バントや盗塁で走者を得点圏に進める作戦は、長打が少なくとも打率の高い打線であれば、効果的になり得る。しかし、23年の日本ハムのチーム打率はリーグ最低の.231で、100本塁打は4位ながら1位のオリックスとの差はわずかに9本。二塁打も195本で3位だった。こうした数字を見ても、あまり動かず長打が出るのを待ったほうが、得点効率は高くなるのではないかと思える。ゆえに新庄監督が自軍の戦力を正確に把握して作戦を出していたとは言い難い。
ただ、新庄監督が就任してから、チームの雰囲気は明らかに良くなった。その点は間違いなく功績として挙げられる。また、今オフにメジャー挑戦を選んだ上沢直之の離脱は大きな痛手ではあるものの、フリーエージェントでオリックスから山﨑福也を獲得。さらにエース格だった加藤貴之も残留を選んだほか、11月のアジアプロ野球チャンピオンシップでは根本悠楓が好投するなど、投手陣にはポジティブな材料が多い。
リーグワーストの94失策だった守備力が、今春のキャンプで徹底的に改善されるなら、最下位からの浮上も見えてくる。さすがに現状戦力では、優勝とまでは行かないだろうが、最低限クライマックスシリーズに出場できたとしたら、新庄監督の25年以降の続投もあり得ない話ではない。
そのために求められるのは「辛抱」だ。攻撃では盗塁やスクイズといった、リスクが大きい割に見返りの少ない作戦を控え、守備においても経験の乏しいポジションにつかせる機会を減らし、無闇な抜擢は避けるべきだろう。見切りが早い傾向があった新外国人選手にも、慣れる時間を与えて欲しい。
就任3年目。ファンは「新庄ならではの面白い野球」を望む時期はすでに過ぎており、「勝つ野球」を求めている。それを実現するための近道は、あまり自分の色を出しすぎないことではないだろうか。
[文/出野哲也]
(出典 news.nicovideo.jp)
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